| 01/10 | |
精神病院でのこと |
初めての勤務先は、とある精神病院でした。
2時間電車を乗り継ぎ、満員バスに揺られて30分。
ハイキングに行くような場所でした。大学の上からの人事で、週一のパートだから行けたようなものですが、毎日の勤務ならとても通いきれません。
入院患者は大勢いてもあまり手がからない(実は手を掛けない)ので、昼の休み時間もたっぷり2時間あって、4時になるとさっさと帰ってこられる仕事的には楽なところでした。
院長先生は鼻の下にちょび髭を生やした、「不思議な国のアリス」に出てくる兎のようなおじさんでした。耳鼻科の先生で、患者のことはまるで判らないので、出勤するとさっと院長室の入って一切姿を見せません。
全閉鎖病棟で、スタッフと患者の区別の決め手は、腰ベルトにマスターキーをぶら下げているのがスタッフ、つけていないのが患者というものでした。
ある時廊下を歩いていると、中庭に森永牛乳という帽子をかぶった若い男の人が間違って閉じこめられていて、「すみません。看護婦さんが僕を見落として鍵かけちゃったんです」と頭をかいています。
私は謝りながら出してあげました。
すると5分ぐらいして、婦長が「誰ですか!折角中庭に○○さんを閉じこめておいたのに」と怒っている声が聞こえました。
やられた!牛乳屋さんと信じて疑わなかった私です。
この病院では、時々、20人ぐらいの患者が看護婦に連れられて散歩に行きます。こんな寒い日に散歩?という日もあって、これがなかなか戻りません。後で聞くと、届け出の入院患者数より多い場合、査察の入る日になると、人数合わせのために連れ出していることが判りました。それで、寒くても出掛け、査察が終わるまで帰ってこられなかったのです。ご苦労様、でもこれっていけないことですよねえ。行政もいい加減です。数ヶ月に一度の査察の日取りを前もって知らせておくなんて。形式だけですよね。
婦長は仕事をびしびしする人で、ミスなどしないような感じの人でしたが、ある事件でそうでもないことが判りました。
2〜4時が面会時間と決められていますが、天気のよい日には、家族がきてくれた患者は病院前の空き地で家族団らんを過ごします。ある時、時間が来たので婦長がみんなを呼び集めて病棟に連れ帰り、家族はバスに乗って帰って行きました。一時間位経った頃でしょうか、空き地に見たことのある男性がうろうろしています。
え!あの人入院患者じゃないの。
なんと婦長は間違えて、面会に来た患者の父親を病棟に入れてしまったのでした。間違えた婦長も婦長ですが、お父さん何で温和しく入れられちゃったんだろう。
職員にも昼食が出るのですが、終戦後のお粗末な学校給食に負けず劣らずのもので、こんなのを毎食食べていたら患者は辛いだろうとその時はつくづく思いました。でも、今になると、皮肉なことにメタボにならず一番良い健康体に作っていたのかもしれません。
この病院に勤務すると、既婚の女性は妊娠するというジンクスがあり、私も先輩達に見習ってその通りになり、じきに辞めることになりました。その数年後に、病院は廃院になりました。時代と共にこういった昔ながらの精神病院は次第に姿を消していきましたが、精神科医療にとっては喜ばしいことに思えました。
次に勤めた病院は、スタッフの数・質は素晴らしく、昼食もとても美味しくて感激したものです。でも、建物は木造のがたびしで、入院予定の人がびっくりして逃げ帰ったりもしました。
今は、精神病院のほとんどが、鉄筋コンクリートで立派な病院に建て替わっています。
先日も、「外観がひどいのでびっくりしないでね」、と念を押してある病院を紹介したところ、「その覚悟で行ったらあまりにもきれいなので、連れて行った夫が文句ひとつ言わずに入院を決めました」と報告されてびっくり。次々ときれいに立て替えが進んでいるようです。メンタルに問題がある人は、判らないのだから何処でも良いというのではなく、むしろそういう人たちにこそ、より気持ちの良い所に入院させてあげたい。
2時間電車を乗り継ぎ、満員バスに揺られて30分。
ハイキングに行くような場所でした。大学の上からの人事で、週一のパートだから行けたようなものですが、毎日の勤務ならとても通いきれません。
入院患者は大勢いてもあまり手がからない(実は手を掛けない)ので、昼の休み時間もたっぷり2時間あって、4時になるとさっさと帰ってこられる仕事的には楽なところでした。
院長先生は鼻の下にちょび髭を生やした、「不思議な国のアリス」に出てくる兎のようなおじさんでした。耳鼻科の先生で、患者のことはまるで判らないので、出勤するとさっと院長室の入って一切姿を見せません。
全閉鎖病棟で、スタッフと患者の区別の決め手は、腰ベルトにマスターキーをぶら下げているのがスタッフ、つけていないのが患者というものでした。
ある時廊下を歩いていると、中庭に森永牛乳という帽子をかぶった若い男の人が間違って閉じこめられていて、「すみません。看護婦さんが僕を見落として鍵かけちゃったんです」と頭をかいています。
私は謝りながら出してあげました。
すると5分ぐらいして、婦長が「誰ですか!折角中庭に○○さんを閉じこめておいたのに」と怒っている声が聞こえました。
やられた!牛乳屋さんと信じて疑わなかった私です。
この病院では、時々、20人ぐらいの患者が看護婦に連れられて散歩に行きます。こんな寒い日に散歩?という日もあって、これがなかなか戻りません。後で聞くと、届け出の入院患者数より多い場合、査察の入る日になると、人数合わせのために連れ出していることが判りました。それで、寒くても出掛け、査察が終わるまで帰ってこられなかったのです。ご苦労様、でもこれっていけないことですよねえ。行政もいい加減です。数ヶ月に一度の査察の日取りを前もって知らせておくなんて。形式だけですよね。
婦長は仕事をびしびしする人で、ミスなどしないような感じの人でしたが、ある事件でそうでもないことが判りました。
2〜4時が面会時間と決められていますが、天気のよい日には、家族がきてくれた患者は病院前の空き地で家族団らんを過ごします。ある時、時間が来たので婦長がみんなを呼び集めて病棟に連れ帰り、家族はバスに乗って帰って行きました。一時間位経った頃でしょうか、空き地に見たことのある男性がうろうろしています。
え!あの人入院患者じゃないの。
なんと婦長は間違えて、面会に来た患者の父親を病棟に入れてしまったのでした。間違えた婦長も婦長ですが、お父さん何で温和しく入れられちゃったんだろう。
職員にも昼食が出るのですが、終戦後のお粗末な学校給食に負けず劣らずのもので、こんなのを毎食食べていたら患者は辛いだろうとその時はつくづく思いました。でも、今になると、皮肉なことにメタボにならず一番良い健康体に作っていたのかもしれません。
この病院に勤務すると、既婚の女性は妊娠するというジンクスがあり、私も先輩達に見習ってその通りになり、じきに辞めることになりました。その数年後に、病院は廃院になりました。時代と共にこういった昔ながらの精神病院は次第に姿を消していきましたが、精神科医療にとっては喜ばしいことに思えました。
次に勤めた病院は、スタッフの数・質は素晴らしく、昼食もとても美味しくて感激したものです。でも、建物は木造のがたびしで、入院予定の人がびっくりして逃げ帰ったりもしました。
今は、精神病院のほとんどが、鉄筋コンクリートで立派な病院に建て替わっています。
先日も、「外観がひどいのでびっくりしないでね」、と念を押してある病院を紹介したところ、「その覚悟で行ったらあまりにもきれいなので、連れて行った夫が文句ひとつ言わずに入院を決めました」と報告されてびっくり。次々ときれいに立て替えが進んでいるようです。メンタルに問題がある人は、判らないのだから何処でも良いというのではなく、むしろそういう人たちにこそ、より気持ちの良い所に入院させてあげたい。
